カメムシの大冒険
あるよく晴れた日のこと。
ふと見ると、まるでぼくを呼んでいるかのように、白い布が風にはためいていて……ほくは、その布を目がけて真っ直ぐに飛んでいったんだ。
(ああ、気持ちが良いなぁ)
布にとまってひと休み。そよ風を体に感じながら日向ぼっこしていると、突然、布の山に放り出された。
驚いたことに、これまで遠目に見るだけだったニンゲンの声が、ありえないほど近くから聞こえてくる。
(まずい!ニンゲンの領域に入ってしまった)
ニンゲンにはなるべく関わり合いになるな、と前に仲間たちが言っていた。どうやら、ニンゲンはぼくたちのことを嫌っているらしく、こちらが何もしていなくとも「クサい」だの「キタナい」だの罵詈雑言を浴びせてくる。関わるとロクなことがないらしい。
とにかくこの場から離れようと思ったぼくは、慌てて布の山から這って出た。
「ねぇ、カメムシがいるんだけど……どうしよう、ソウジキで吸い取っても大丈夫かな?」
(カメムシに、ソウジキ?何だそれ。聞いたことないぞ)
ぼくが不思議に思っていると、突然周りの空気が「ブォー」と乱れたんだ。
……気がつけば、暗闇の中だった。狭い空間で、周りは埃だらけ。空気が何だか淀んでいて、とても怖い。
ぼくは、無我夢中で6本の脚を動かし、ずっと先に見える小さな点のような灯りめがけて進んでいった。そして、長い長い旅路の末にようやく外に出ると、手近にあった白い壁にとまって、羽を休めることにした。
そして、夜が明けた。
「わー!壁にカメムシがとまってる!昨日吸い込んだのに、夜中に出てきたのかな?」
(まずい、見つかった!もしかして、カメムシってぼくのことなのか?)
「殺すのもかわいそうだから、ワリバシで掴んで外に出そう」
ぼくは逃げようとしたけど、疲れた脚と羽が言うことを聞かない。あっという間に2本の木の棒に挟まれて、身動きがとれなくなってしまった。
「あばよ、カメムシ」
高いところから放り出されたぼく。
あーっ!地面がどんどん迫ってくる!危ない!
間一髪で羽を広げたぼくは、ふわりと空中に舞い上がった。久しぶりに風を感じて、気持ちが解放感に満ちあふれる。
やっぱり、外の世界がいちばんだ。
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以上、この間の週末にわが家に迷い込んだ(と言うより、洗濯物と一緒に取り込んでしまった)カメムシの気持ちになって書いてみました。
……ラストは完全に想像です。
カメムシって、飛べるんです、よね⁈飛べなかったらただの残酷物語だから、願わくばあのカメムシ君には元気でいてほしいものです(笑)
*トリおんな*
☆第112回医師国家試験まであと79日☆