トリおんな(24)の医学生日記

2018年3月、某国立大学医学部を卒業しました。/KOKUTAI ONLINEで連載(2017.8-12)

【本】人魚の眠る家(東野圭吾)

『人魚の眠る家』(東野圭吾)



あらすじです↓(Amazonより)


小学校受験が終わったら離婚する。 そう約束した仮面夫婦の二人。
彼等に悲報が届いたのは、面接試験の予行演習の直前。 娘がプールで溺れたー。 病院に駆けつけた二人を待っていたのは残酷な現実。 そして医師からは、思いもよらない選択を迫られる。 



以下、感想。一部ネタバレがあります。


・臓器移植の矛盾を鋭く突いた名著だと思います。普段(ペーペーの学生という身分ではありますが)医療の世界に身を置いている私が読んでも、違和感なく入り込めました。東野圭吾さん、この本をお書きになるにあたって相当量勉強なさったのではないでしょうか。

・なかでも印象的だったのが、「イスタンブール宣言」についての記述でした。イスタンブール宣言とは、簡単に言うと「臓器移植は自国のなかで完結させるようにしましょう(つまり、臓器提供者=ドナーは自国民で賄いましょう)」という取り決め。
本書のなかでも描かれていたように、日本では「○○ちゃんを救う会」のような団体が、重い病気を患う子どもが渡米して移植手術を受けられるようにするため寄付を募る例が数多くあります。一見「美談」ではありますが、その子が渡米することによって、移植の順番待ちをしているアメリカ人の患者の列に割り込んでしまうことになるのもまた事実。医学部の講義でこのことを知って以来、「○○ちゃんを救う会」のような活動を見かけるたびに、複雑な気持ちを抱くようになりました。(もちろん、患者の身内の方の「命を助けたい」という願いは重々承知しているのですが……)
1人の命を救おうとする行為が、外国人の患者をいわば「押しのけて」命を「買う」ことを意味する--その矛盾から目を背けず、正面から描ききっている点で、本書は出色だと思います。

・医療倫理の題材として「もう助からないと分かっている患者に対しても、人員と時間と金銭・資源を割いて救命・延命処置を施すべきかどうか」という議論が取り上げられることがよくあります。これには「唯一の正解」というものが存在せず、とても難しい問題だと思うのですが、本書を読んだことによって患者の身内(母親)の思いが胸に迫りました。今まで私は、患者本人や家族の思いを十分に理解しないままに、どこか「机上の空論」で満足してきたような気がします。

・今まで心を決めきれず空欄にしていた、運転免許証ウラの臓器提供の意思表示欄。この本を読んで、記入することにしました。将来の医師としてという以上に、一人の人間として、やはり生死に関わる意思決定は自分でしたいですし、意思表示していなかったが故に家族が思い悩むということのないようにしたいと思いました。


医学生として、読んでよかったと心から思える一冊でした。

*トリおんな*


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人魚の眠る家